アルケミラの小部屋

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憐憫~潰エタ私闘ヲ望ムモノ~ 夜話





 目の前に、細く儚い体躯が横たわっていた。
 つい先ほど響いた胸郭を砕いた音は、粛然と、細躯の絶命を告げていた。
 臥した四肢は力を喪い、少なくとも、生者として動くことはもう、ない。


「―――――――――」


 訪れた勝利に去来する想いは、脆く弱い自身の双肩を圧し潰さんばかりの虚しさと
 言葉を紡げなくなるほどに苦い罪悪感。そして、胸が張り裂けそうなほどの哀しさだった。

 その異形を恥じることなく、正道を歩んだまま、己を曲げず
 こちらに曲がらず、曲げられずに戦い抜いた貴き血の貴人、セプテン。
 彼にそんな末期を贈れたことが誇らしく、嬉しくもあった。
 戦に臨む者に、ふさわしい舞台を捧げられた。
 共に戦ってくれた銀誓館の同志には感謝の言葉もなかった。

 彼から受けた血の雫は、己の中で生き続けている。その想いと共に。
 故に、彼を忘れない。今まで戦ってきた好漢強手と同じく。それ以上の畏敬を以て。
 あの姿を、自分は心に留めることが出来るだろう。


 そして、そんな誇りと喜びを塗りつぶすほど、哀しかった。
 『本当の名前』すら知ることの出来なかった、貴き血の少年の死が。
 彼から受けた血の雫、飲み干した彼の血の一滴から伝わってきた想い。

 優秀な兄に焦がれ、その親友である研鑽家に焦がれ
 けれど、その二人から顧みられることなく、それでもその二人を愛した心。


  彼にはその気持ちが、全てとは言わないまでも、理解出来た。
  彼も同じだったからだ。

  父は歴代のストロームガルドの中で、最強の魔人だった。
  武芸知略に秀でた自慢の父親。
  その息子である自分は、歴代のストロームガルドの中で最弱だった。
  父には「才能がない」と言われた。
  「戦場に立つべきではない」と。

  戦いに向かぬ自分を慮っての言葉でもあったと、今なら理解出来る。
  名も知り得なかった少年と同じように、彼は父を愛した。
  父も、彼を精一杯愛してくれた。

  せめて父の名を穢さぬように、と腕を磨いた。
  父は、ただ笑って、見守ってくれていた。


  そんな父なのに、世界結界には、抗し得なかった。
  見えざる狂気を経て、『棺』で眠る刻が訪れ、自分は、その父を
  『棺』に封じ、永遠に終わらぬ生きながらの死に誘ったのだ。

  あんなにも自慢だった、自分よりもストロームガルドにふさわしい父だったのに。


  不甲斐ない自分と、憧れて愛した、もう今は居ない人を抱える心が
  全てとはいかないまでも、理解出来るからこそ、哀しい。

  何かが違えば、自分も、そこに立っていたのは自分だった。
  その運命の数奇さと、自身を同じ想いを抱えた少年を、殺したことが……ひたすらに、哀しい。
  
 

 日本で儀式を果たし、オクタンス麾下の吸血艦隊に迎えられる栄誉を得て
 戦いの中で絶命した彼の兄。セプテンにとっての本当の「セレニ」である月長。

 その訃報を聞き、儀式に挑んで後を追い、そして今し方の戦いで
 セレニと呼ばれた少年の前で死んだ、セプテン。


 彼にとっての自分の父を、自身の手で奪い、喉が枯れるほどに泣いた自分の山を築いて
 それでも、同族を害し続ける。己の骸の山を積み上げながら、先に征く。


 見えざる狂気を抑えるイグニッションカードという奇跡にすがり、その技術を手にし
 いつか故郷に戻り、その力で、墓守を救うために。
 未来に己を残さないために、今の己を殺し続けていく。
 父を奪った世界結界を維持する、人間という種族が蔓延る世界に力を貸しながら。

 己の選んだ道行きが、今は呪わしい。
 それでも、やめるわけにはいかない。
 積み上げた屍を、無駄にするわけにはいかないから。


 虚しさと罪悪感を振り払い、心を奮い立たせて、尚、残るもの。
 その哀しみだけを、今は噛み締める。目の前の少年の死を悼むために。


「―――――」


 傍らに落ちていた手帳に、折り重なった亡骸からこぼれた血を塗りつける。
 三日月刃のガンナイフを拾い、墓標の代わりに、己のガンナイフを突き立てた。

 最後に、墓守として、その役目を果たす。
 二人の血をもう一度指先にすくい、Sargへと塗り、その血を刻む。
 見えざる狂気に堕ちた吸血鬼を、『棺』に封じるのが墓守の役目。
 それは、相手がたとえ死したとしても、変わらない。
 吸血鬼の正道を寿ぎながら、その正道を妨げる。
 それが、ストロームガルドの在り方だった。


「―――貴方を慕う誰かが、復讐の誓いを立てるとき。その相手が一目で僕と、判るように」


 これは、いただいていきます、と告げて
 彼は三日月刃のガンナイフを恭しく捧げ持った。
 まるで原初の吸血鬼のような禍々しい顔に
 いつもの穏やかで、寂しそうな笑顔を浮かべて。

 そうして、尊すべき血への義務を果たした後。
 彼は、同じ想いを抱えた同族の少年に、等身大の少年としての言葉を、一言こぼした。


「―――君と、友だちになりたかったよ」


 最後に。
 彼を呼ぶ名すら、持てないことが。

 一族に継がれた名ではなく、彼の、彼自身の名すらも呼べないことが。
 彼は、たまらなく、哀しかった――


 

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