アルケミラの小部屋

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Going On!

 



   ―――その人は、ただ、静かに
                           そこに佇んでいた




           「Going On!」



 出会いは、よく覚えていない。

 ただ、彼が
 「入団した時から、気にかかっていました」、と静かに言ったのを、よく覚えてる。


 目の前に佇む人を見つめて、つかの間、想いを馳せる。
 この人は、僕にとって、きっといつまでも尊敬に値する先輩であり続けるからだろうか。
 いつも、助言を貰い、互いに励ましの言葉を交わし、いたわりの言葉に微笑みを浮かべ合う
 そんな、関係だからだろうか。

 この、今、眼前に広がる光景に、僕は、想像の中ですら、たどり着いたことは、なかった。


 もちろん、この人を戦友として見なかったことはない。
 彼は窮地を共にしてくれる、頼もしい戦友だった。
 優秀な戦士として、彼のことをいつも頼もしく感じていた。
 僕よりも、よほど、上手に戦う人だと思う。
 この人たちのリベレイションアビリティは、正直、ずっと憧れだった。


 では、何故だろう。
 この人は戦う人だと知っていたのに、何故、僕はこの瞬間を想像し得なかったのだろう?
 この人の強さを間近で感じ、十分に肌で理解し、その強さの程を知り尽くしていたのに――

 吹き抜けていく初夏の風、真夏の熱を含んだ風が、あの人の長い制服の裾と、僕の髪を揺らす。
 開始の合図を待つ間、走馬灯のように駆け巡る追想に、心を乗せる。



    思い至ることもなく、何故、僕は、彼の向こうを見ていたのだろう。
    夏日に浮かぶ影を追う足すら、なくしかけていた僕だと言うのに。



 今日、戦う約束を交わした友を思い浮かべる。
 僕よりも早く駆けていく、同年代の友人の姿を、いつしか眩しそうに眺めていた。
 彼女の後ろから、いつの間にか追い越されていた道を、ゆっくりと歩いていたんだ。

 彼女が、僕の何を追っているのか、わからなかった。
 もし、僕が悩み抜いて、苦しみ抜いて、その果てに戦っている姿を追ったのだとしたら
 それは、あまりにも残酷な追跡だったと、思う。

 彼女の追ったモノは、遠い幻であり、彼方の蜃気楼であり、僕の、叶えられない、夢。
 あまりにも清らかで都合のいい幻想を、僕は、他の誰よりも醜く、愚かしく、みっともない
 歩み方でゆっくりと、死の間際の旅人のような歩幅で、追いかけている。
 顔を上げて先を見据えるたびに、純粋すぎるその尊さに、辿り着く筈はないのだと、
 何度も何度も、打ちのめされ続けながら。


 だから、もし彼女がそれを追っているのであれば、僕は、決して彼女には勝てない。
 僕の歩みは迷いだらけで、まっすぐにそれを見つめ続けられるほど、強くはなかったからだ。
 すでに、スタートの時点で、勝負が終わっている勝負だった。
 それでも、その幻を信じてくれたかけがえのない友情のために
 出せるだけの全力を出すつもりだった。

 彼女が、そんなものを追いかけていなかったとしても
 その迷いのない歩みと眼差しに、僕は………きっと負けていた。
 

 彼女が僕の「何」を見ていたのか、わかれなかったから。
 どんな「僕」で、戦えばいいのか、わからなかったから。


 彼女と、戦う資格があるのかどうかすら、僕は、迷って、いた。


 その人は、静かにそこに佇んでいた。
 強い意志を秘めた眼差しが、「僕」、を、しっかりと、視ていた。


 彼が、「入団した時から、気にかかっていました」、と静かに言ったのを、よく覚えてる。
 彼にとって、「僕」、は、なんだったのだろうか?


 彼の傍らに、黒い影。彼の、最愛の姉。
 死して離れることのない、家族。


    世界結界という、悍ましい檻の中では認められることのない、「家族」
    そんな「家族」を持つ者同士だから、彼は、僕を見ていたと、言った


 僕の傍らにも、黒い影。僕の、最愛の姉。
 お互いの手に、ガンナイフ。
 僕たちは、武装も、愛する家族も、同じだった。


 彼が、もう、ずいぶん前に
 「入団した時から、気にかかっていました」、と静かに言ったのを、よく覚えてる。
 そんな時から、彼は、僕を静かに、見ていた。


 みっともなく足掻いて、地べたに這いつくばって
 のたうり回り、呪詛を吐き散らして、人間という種族すべてを憎み尽くしながら
 ただ、同族のためにと口にして、同族すらも血反吐に沈めて、勝ち進みながら
 人間を勝たせるために、臓腑を焼き焦がしながら、戦争に身を捧げた
 「僕」の全てを、視ながら


 彼は、最初に、あの言葉を言った時と同じ笑顔で、僕と同じ時間を過ごしてくれた。



 彼にとって―――――御鏡・幸四郎という人にとって、僕は、なんだったんだろう。

 ここに、答えがあった。
 彼は、静かに佇んでいた。

 ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・ ・
 僕を、待っていた。


 彼にとって、僕は、同じ想いをわかりあう友であり
 長く、この学園に在籍する、ベテランの彼に、いつの間にか追いついている
 「がんばっている後輩」、だったから。

 最初から、彼はそれ以上でも、それ以下でもなく、そうとして僕を見ていた。
 そう、思っていてくれていることが、わかった。

 僕は、彼を理解する。
 彼は、僕をすでに理解していた。

 彼を、しっかりと見つめ返す。
 正面の相対の筈なのに、彼の、背中が見えた。


 僕がいつしか見失っていた、追うべき背中が。


 彼は、約束もしなかったのに、ここにいる。
 段取りを決めて、運を天に任せて戦いを誓い合った彼女よりも厳しい条件をくぐり抜けて
 ただ、純粋に、僕と戦うためだけに、ここに来てくれた。


 何故、気がつかなかったのだろう。
 何故、忘れていたのだろう。

 静かな心に、燃えるような闘志を秘めた人であるということを。
 長い長い時間を耐え忍ぶことの出来る、本当の強者であるということを――!


 彼は、待っていた。
 彼は、待っていたのだ!


 僕と、よく似た道を先に歩んで、その途上。
 振り返り、僕の歩みを見つめながら、見守りながら。
 自らも歩んで、先にたどり着いた分かれ道。
 道の交わる場所で、未熟な後輩が、やがてここにやってくることを―――



         「いつか、あなたと戦ってみたかった―――!」



 戦いの交差路の先で、こんなにも、待ってくれていたじゃないか―――――!!



     「――――――全力で行きますよ!」


 視界が開く。心と共に吼える。
 胸の火が、一瞬で四肢を焼いていく。

 
 血潮が、今は失った輝かしい希望の鼓動を一瞬だけ刻む。
 この血の貴ぶり/昂ぶりを、右腕に込める。
 幻でもいい。夢でもいい。一撃だけ、たった一撃だけでいい。

 僕が正視できない夢の涯の君よ。
 せめて彼を失望させないだけの打撃を、右腕だけでいいから、貸してくれ――。


 開始の合図が、響く。


 彼女との約束は、頭から消えていた。
 次を見ていて、勝てる相手なんかじゃなかった。


 地を蹴るタイミングは同時。
 しかし動くのは相手が一瞬早い。

 当たり前だ。
 装備は同じ。
 それなら、強い方が迅い―――!


「――――――――――ぁ」


 視線の先、かさなる影。生まれる、新しい一つ。
 羨み、焦がれてやまないアビリティが展開される。

 僕の背後、僕の疾走に一瞬も遅れることなく、姉さんが黒のドレスを纏う。

 先んじられない。
 とられたイニシアチブは覆らない。

 僕と彼のレベル差は、たった1レベル。
 そして、その1レベルは、僕達の間において、致命的な差だ。
 彼の一撃は容易に僕を撃ち伏せる。
 魂の凌駕の抵抗すら、叩き伏せる。

 こちらが凌駕で取り戻す体力が、彼の与えてくる毒の効果を凌ぐのに2点、足りない。
 たった2点の体力が、致命的に敗率を上げている。致命的な1レベル差。
 後手に回ってはいけない相手に、けれど先手をとることすらも出来ない――!


「―――――あ」


 ガンナイフの筒先から放たれる一撃を、残像すら残す奇跡的な速度で、姉さんが庇う。
 直撃した箇所のドレスが、抵抗もなく、撃ち砕けて虚空に散った。


 ドレスを纏い直す姉さんをスクリーンに、右手を、構える。
 五指を曲げて鉤爪の拳形、右斜め上、大上段。
 父さんにたった一つだけ授かった、僕の宝物。

 どんなに強い相手であっても、その強さ、その生き様、その在り方を敬し
 「克ちたい」と望んだ相手以外には撃たない、僕の、矜持(プライド)。

 それを、振り下ろす。
 彼に、渾身で叩き込む。


  「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――!」


 叫んでいた。
 叫んでいた。

 必死に、渾身で、全霊で、全てを振り絞って、叫んでいた。
 何も考えずに、この強い人に、一撃をぶつけることだけを考えて、叫んでいた。


              ―――白昼の影法師の右腕に、伸ばした右腕が、届いた気がした。



 「―――っ」 


 一撃で、彼の防具を剥ぎ落とす。
 交差された両腕の防御を抜け、凄まじい詠唱銀の守りの城塞を、突破する。

 そして、それだけだった。
 彼は、立っていた。


 銃口が、電光石火で、僕をポイントする。
 逃げられない。かわせない。体勢を立て直すヒマすら、与えられない。


     ―――ずっと、傍に居て、見守っていてくれた。
 

 撃ち出された弾丸が胸腔をぶち抜いて、背後に突き抜ける。
 僕の、気魄防具は、術式の雑霊弾に対して、余りにも、無力だった。
 一発で粉々に防具が砕けて、銀色の雨が、降り注ぐ。
 胸部を突き抜ける痛みと熱さが、伝えてくれる。


     ―――待っていてくれた。


 四肢から力が抜ける。吐き出した想い以上の力を、心は、もう与えてくれない。
 付随効果の毒を受けるより前に、意識が静かに刈り取られていく。
 膝が折れて、ゆっくりと、前のめりに倒れていく。決着は、一撃だった。


     ―――だから。


 今日の戦いは、彼女を見定めての、ことだった。
 彼を相手にするには、心も、体も、準備が足らなすぎる。
 この戦いにかける想いですら、彼は、ずっと持ち続けていて。
 僕は、今日気づいたばかりだ。重みが、あまりにも違いすぎた。
 この結果は、ひどく当たり前の、結果だった。


     ―――今度は。


 納得している筈なのに、心のどこかが疼いている。
 追い定めた背中だからこそ、見定めた相手だからこそ。
 たとえ、準備不足でも、心構えが出来ていなくても。
 どんな理由があったとしても―――負けるのが、悔しい。


     ―――僕が追いかける番なのだ。


                      「あぁ――」

     「――少しだけ」





     「――先に行きます」

                      「勝ちたかったなぁ――」


 倒れた僕を
 あの人は、振り返らなかった―――――――


 

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