アルケミラの小部屋

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イセスのつぶやき その49

 ―――追いつきたい人が居る

 ―――勝ちたい人が居る

 ―――出逢った頃は同じ舞台で戦えるなんて、夢にも思わなかった

 ―――同じ道を歩いてるわけでもないし

 ―――歩く速さだって同じわけじゃない

 ―――“違い”を“良し”として自分の道を歩み続ける人の背中が

 ―――強くて

 ―――でもひどく寂しげに思えたから

 ―――決して交わらない道でもいい

 ―――せめて、隣を歩いてあげられるようになりたかった



 開始位置は背中合わせ。
 どこかのGTで見たプライズ景品マシーンを挟んで、朗々と響くイグニッションの声。
 一度、ひどく怒らせたことがあるから、喪服を着てくるのはやめた。
 パーカーにシャツにキュロット、少しラフな普段着を身にまとう。
 右手には、誓いを刻んで、想いを込めたガンナイフ。
 傍らには、相変わらずの笑みを浮かべている姉さんの姿。

 深呼吸をひとつ。
 目を閉じて、武器を、戦いに挑む騎士の様に掲げる。
 打ち合わせなんて、まるでしていない。
 でも、自分の後ろで、あの白亜の宝剣が掲げられる気配。
 唇に強い微笑を刻んで、深呼吸をもうひとつ。


  「―――いくよ!!」
  「さあ、始めるか」


 ぴったりと合わさったタイミングで強く、静かに言葉を紡いで。
 僕たちは同時に地を蹴った。


 毎週恒例の学園祭黙示録のバトルカーニバル。
 その中の平凡な一戦、ありふれた戦いの幕が、切って落とされる――――



 お互いの手筋は読み切れてる。
 だって、ずっと一緒に戦ってきたんだ。

 それが一年に少し満たないだけの、たった318日の中の出来事でも
 僕たちは、戦争で、ゴーストタウンで、依頼で、黙示録で
 僕たちは戦ってきた。僕は戦ってきた。

 あの人の足手まといとして。
 彼女の援護役として。
 守崎・汐音さんの、戦友として。
 君の騎士として、戦ってきた。

 だから、汐音さんがどれだけ強いのか。僕はよく知ってる。
 汐音さんがどんな風に強いのか、僕は、よく知っているんだ。


 先手をとってプライズマシーンを回り込む。姉さんが影の様につき従う。
 物陰から姿を現した僕たちを出迎えるのは、黒の巨爪、緋色の大手甲。
 紅蓮の炎を纏う、左の赤手と右手の宝剣。

 紅の髪を首筋で結わえた涼やかな面立ち。
 強く前を見据える眼差しに映る自分の姿。
 合わせ鏡の様にその虚像の瞳に彼女を視る。

 身構える彼女の胴へと、ガンナイフの刃を叩き込んだ。
 確かな手応え、詠唱兵器を断ち割る感触。


  「やるな、優勝者(チャンピオン)」

 
 夕闇の番人を一瞬、影が覆う。体内から呼び出された黒燐蟲の鎧。
 見慣れたアビリティエフェクトを纏いながら、汐音さんは軽く後ろにステップ。
 開かない桜色の唇と、僕を見据える瞳が、言葉を紡がずに語っていた。
 当たり前さ、挑戦者(チャレンジャー)。


   ―――僕は君にずっと、そう言って欲しかったから、ここまで来れたんだ!



  「―――――ッ!」


 ターンが回る。先手を取る。イニシアチブを征して、攻めて、攻めて、攻め続ける。
 僕が汐音さんと相対したときに出来る事なんて、恋でも、戦闘でも、それくらい。
 だから、僕はずっと攻め続ける。その鉄壁の守り(スタイル)を貫くまで。

 左のガンナイフを高速でホルスターに叩き込んで五指を曲げる。
 徒手空拳、屈指五爪。ずっと、ずっと、この業を撃つ事を夢見てきた。
 誰よりも、その強さを欲しいと願い、この必殺の爪撃を撃つ日を待っていた。
 父さんに教えて貰った、最高の戦友にだけ撃つ、この業を!


  「易々と喰らってやる訳にはいかん――!」


 解き放つブラッドスティールの吸血波動、ランクは奥義。
 神秘が最も高い汐音さんですら貫通する不可視の爪撃。
 同時に動いた姉さんの攻撃まで絡めた連携を、裂帛の気迫を宿した宝剣が断つ。
 ガードされた。同時連撃、しかも最高のタイミングだったのに!


 自然と、唇に笑みが浮かぶ――――そう来なくっちゃ、相棒(バディ)!!


 その笑みの横を、擦過する紅蓮。
 目視ギリギリの速度で飛ぶ、左の腕(かいな)。
 踊る焔に着火された姉さんが、鮮やかな真紅に一瞬で染まる。
 ノーモーションで飛んできたのは、彼女の、守崎・汐音の代名詞。


 僕が憧れ続けた、魅せられ続けた―――  一撃必殺、紅蓮撃!!


  (立てる、姉さん!)

  (時間稼いで!)


 交わす、声なき声。目線すらも必要ない、僕たちの絆。
 一欠片の余裕もない姉さんに、左の五指を強く構え直して、返しの刃で薙ぎ払う。
 一度で通じないなら、通じるまで攻める。尽きるまで攻める。僕の全てを叩きつける!


  「―――」


 今度こそ、不可視の爪が守りを破る。
 彼女へと、僕の一撃が届く。視線を確認。間に合わない。


  「――――!!」


 “瞳が全く僕を視ていない”

 気づいた時には、体重を乗せた宝剣の一撃が姉さんを断ち割って
 返る赤手が、崩れる膝を真下から勝ち上げた後だった。
 業炎と共に燃え尽きる姉さん、末期のただ一言。



   <<―――勝って!!>>


 誰よりも僕のことを傍で見てきたから
 僕がどんな気持ちか知っている人だったから。
 それは、どんな激励よりも強く、僕の心を叩いた。


 勝とう。僕はこの人に勝とう。
 この強い人に勝って、もっと、強くなろう。


 爪を構える。僕の持つ“爪”を構える。振り抜いて、貫いて。
 抉った詠唱兵器の護りの向こうから、流れ込んでくる赤。
 汐音さんの血が、僕の体に緋(火)を点ける。
 あともう少し深ければ、体力は全て削り切れていた。


    ―――ねえ、汐音さん、伝わってる?


 黒燐奏甲で身を護る汐音さんに無言で呼びかける。
 かち合う視線に映るのは、お互いの姿。
 琥珀に似た色の瞳に、黒。その左手には緋。
 黒の瞳に映る、紅。両腕を交差して、武器を十字に。
 守りを固めて、反撃の機会を伺う、戦士の瞳。


   僕は―――


 最後の爪撃が尽きる。回り切らない。闘志を奪い切れない。
 残ったのはただ一人。アビリティもない、使役ゴーストもいない。
 ガンナイフを振り回すだけの、ただの僕一人。

 汐音さんのブーツが床を踏む。前に出ようとする。
 術式防具を纏ってる汐音さんにとって、術式特化の僕は格好の獲物だ。
 守りの時間は終わり。攻めて、盤面を覆す時間が始まる。


   僕は  こんなに―――


 “そうくると思ってた”


 だから、僕も前に出た。
 汐音さんよりも早く、疾く、迅く――!

 クイックドロウした左のガンナイフの刃を、右のガンナイフの刃に押し当てる。
 ある女性を護った王にちなんだ名前の、僕の想いをありったけ込めたガンナイフに。
 前に出る。赤手よりも宝剣よりも早く、疾く、迅く!


  強くなったよ  汐音さん―――!!


 カウンタークリティカルヒット!
 ガンナイフ二刀の十字交差斬りを叩き込む!

 詠唱防具を抜いて、刃が白い肌に埋まる。
 斬り抜ける。行き違う。振り向いた先で、紙一重。
 ほんの僅かな体力を残して、汐音さんは……立っていた。


  「―――流石だね」


 今の僕が放てる最高の一撃、アレほどアビリティを重ねてすら倒せない。
 静かに、汐音さんが再び防御を固めて、黒燐蟲の鎧を纏う。

 ガンナイフの引金を絞る。不意を打つ手はもう使えない。
 汐音さんが距離を詰めて来ない。カウンターが取れない。

 射撃、隙を作ろうにも、回避すらされない。正確な射撃が汐音さんを捉えて
 黒燐蟲の癒しが、全ての努力を無為なものに変えていく。


 幾度目かの射撃、汐音さんが手甲を盾に、前に出る。
 今度は射撃の終わりを狙って、僕が迎撃態勢に入る前よりも、早く。
 左に宿る灼熱、封術と引き換えに齎される、赤い災厄の焔。


  「―――ずっと、想ってた。君と―――」
 

 真紅の軌跡を描く禍津の炎を、美しいと感じながら、一撃目をしゃがんでかわす。
 焔の尾が、黄色のリボンを焼き焦がす。玄い海の様に髪が広がる中。
 渾身のフルスイングの反動を利用して身を翻した汐音さんが、構え直してる。
 再びの轟音、纏われる爆炎。轟炎を粧う左の打ち下ろし。
 覚悟を決めて、歯を食い縛る。床を蹴って、立ち上がり様の反動。

 魔炎の巨拳へと体ごとぶつかっていく!
 打撃が最高点へ到達するその前に、無理矢理自分を砲弾にして威力を減殺。
 劫火に焼き尽くされながら、体を入れ替える。
 凌ぐ。体力は、0まで削り切られてない!!


  「―――“紅蓮撃(こいつ)”に勝ちたかった!!」
  「そうか!!」


 お互いに剥き出しの戦意を言葉にして叩きつける。
 また擦れ違い、距離を空けて、射撃、かわされる。
 踏み込まれる。赤手、宝剣。身を捻ってかわす。

 囮だ。判ってる。
 引金を絞る。はじき出された弾丸が手甲の表面で弾ける。
 読まれてる。此方の回避先を読んでの、フルスイング。
 僕の気持ちに応えるかの様に、獄炎が赫く、赫く、燃え盛っていた。
 
 ダメだ、当たる。本能が理解出来た瞬間、避けるのを止めた。
 二本の足を杭に、地面に叩き込むイメージ。
 致命(クリティカル)のインパクトの前に、ありったけの想いを込めて。


 叩きつけるように


   「勝って――――!」



     轟音
               一閃
                           爆発


   「あの笑顔を守っていくって、僕が僕に誓ったんだ!!」 



 叫ぶ。


 魂が肉体を凌駕する。


 紅蓮撃の爆音の中でも打ち消されない叫びが、響く。
 一歩も、そこを動かなかった。
 フルスイングの打撃力に、魔炎の灼熱の火炎に耐えて。
 張れるだけの意地を張って、耐えて立った。


 汐音さんは僕の一撃を受けて倒れなかったじゃないか。
 なら、僕だって一撃で倒れるわけにはいかない。
 紅蓮撃に一撃で倒されるわけにはいかない。


 だって、あの赤い焔の腕は汐音さんの象徴だから。
 彼女を“こっち側”に引きずり込んだ、血の呪いなんだから。
 あの人の心に燃える、怒りと、闘志の炎の化身。
 そして、消えない心の火傷を刻み続ける、妖の業。


 だから、負けたくない。勝ちたい。
 勝手な思い込みだって判ってる。
 単純な憧れと、克己心が混ざってるのも判ってる。

 でも、それでも、あの業に勝ちたい。
 勝って、その業にも耐えれる男なんだって、汐音さんに見せつけて
 あの子の、重荷(おびえ)を、もう少しだけ背負ってあげたい。


 体を切り返す。崩れそうになる膝を叱咤する。
 万全でも攻撃を当てるのが難しいのに、中途半端な一撃が当たるわけがない。
 首薙ぎの一撃が空振りしたところへ、宝剣の袈裟斬りと、紅蓮撃の横薙ぎが来る。
 ボロクズの様に地面に叩きつけられて、体がボールみたいに跳ね跳んだ。


  「――――いくぞ」


 地面を跳ね跳びながら、辛うじてある足の感触が床を踏んだ瞬間、跳ぶ。
 もう一度だけ、魂が肉体を凌駕する。まだほんの僅かな間だけ、戦える。
 ガンナイフを構えて、十字交差の胴薙ぎを汐音さんに叩き込む。
 静かな声は、十字交差の既に前。僕が立ち上がることを判ってたんだ。

 当たり前だね、挑戦者(チャレンジャー)。
 優勝者(チャンピオン)がただのワンツーブローで沈むわけには、いかないんだから。


 半歩、身を退くだけで斬撃をかわした汐音さんが右宝剣を逆手に持ち替える。
 弐の太刀を即座に打てない、必殺の構え。左の赤手を掲げて左半身。
 担ぐ様に構えられた左の爪が、蜘蛛の頤の様に開く。
 

 体が前に泳いでる。足を踏ん張る事も出来ない。
 カウンターをとる形で放たれる、渾身の一撃。
 汐音さんの瞳に宿る僕が、強い、強い瞳で僕を見返した。
 汐音さんは、この一撃を最後の一撃にする為に


「―――燃え尽きろ!!」


 自身へと、言霊を放ちながら―――真っ直ぐに、僕へと紅蓮撃を、撃ち込んだ。




 終わりは、そっけないほど、軽く、さばさばとした別れ。
 仰向けに倒れる僕を、見下ろすあの子。
 静かに笑って、勝ち誇る。僕は笑って、悔しがる。


 振り向かず、颯爽と身を翻し、次の試合に向かう汐音さんの後姿が消えた後。
 僕は、少しだけ無力じゃなくなった、ちっぽけな右手を天井に向けて。
 強く、強く握り締めながら、最後の力で、呟いた。



 「――――勝ちたいな」



 あの子に。
 守崎・汐音に――――僕は、勝ちたい。

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