アルケミラの小部屋

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アルケミラの ゆめ




 ――――嗚呼 また 夢を視ている


 サキュバスとして成長を重ねるたびに
  リリスからどんどん遠のいていくたびに視る夢

 赤いカランコエの咲く花畑の中
  いつものように佇む私は そこで膝を抱えて座り込む誰かを視つける

 花畑の他には 満天の星空
  瞬く光の中に 酷く厭わしいものが映る


 それは淑やかな老婦人の喉笛に噛みつく蛇であり
  飛ばされた口づけを受けて音もなく倒れるあどけない兄弟であり

 幸せな夫婦の寝所で四肢の自由を奪った妻の目の前で
  夫の腰に跨って浅ましく腰を振る銀色の髪の女の姿だった

 瞼を閉じる 星の瞬きは瞼の裏と胸に焼き付いている
  忘れられない 消せない罪 夢の中で視る私の過去だ

 嗚呼 それでも 私は
  花畑の中に居る少年が微笑んでくれるなら
   いつか罰せられる日が来るまで その子と
    その子の愛した 美しい世界と優しい人々の為に生きていける

 膝を抱える少年にいつもの様に歩み寄る
  いつもはすぐ埋まる二人の距離が 今日は縮まらない


 いつの間にか縮んでいた体
  リリスとしての女性が薄れたせいで幼子に近づいた体

 短い足で走るのはもどかしい
 もう少しだけ 長ければいいのに


   「ねえ どうしたの?」


 縮まらない距離
  けれど声なら届く 呼びかける 彼は顔を上げない

 応える様に星が瞬いて 
  彼の夢と 私の夢をつなげた



   戦場の片隅 激しい戦いで無惨な姿になった少女
    金色の巻き毛をふわりとなびかせて微笑んだ面影は
   
   絶息寸前の蒼褪めた表情を残酷に彩る
    再会の挨拶もなく 戦う事すらもなく その子が告げた


     「―――目を閉じて」


   金属の塊を構える音 一つ鳴り響いた銃声
    渇いた音色は 覚悟を決めた心に重くのしかかる


  目の前で 緋色の長い髪が揺らめいて
   華奢な体が静かに傾いて ひどくゆっくりと傾いていく

  いつか起こり得る事だと判っていたのに
   その子の覚悟を上回るほどに その光景は心を砕いた

  脳裏に錯綜する 彼の半生
   父親とその祖父たちへの深い敬愛

  彼らが貫く忠義への憧憬 
   その忠義に殉じると決めた決意の重さと

  袂を別った後でも保ち続けていた
   原初の吸血鬼への畏敬と尊敬が

  一瞬で真っ黒に塗り潰されて
   彼は 彼の半生を渾身の力で踏みつける


      「――ぶち殺してやる」


  生まれて初めて聞く言葉だった
   滴り落ちるほどに憎悪に溢れた声だった



     「そんなの 当たり前じゃない!!」



 私が 彼に同じ事をされた時
  きっと同じ様になる それ以上かもしれない

 自制を失い ただのリリスに戻るかもしれない
  それくらい 彼の抱いた感情は当たり前の憎悪だった


 どうして それが赦せないんだろう?
  そんなもので変わってしまうほど 彼は弱い人間だっただろうか?

 否定する 距離が埋まる
  駆け寄って うつむいた彼の顔を無理矢理上げさせる

 彼はハッキリと私の目を見返した上で
  けれど頑として首を横に 哀しげに振った


   「血統は僕たちが最も重んじなければいけないものだ」


 何も 言えない
  彼が笑ってくれないから 哀しくなって 泣き崩れる

 抱き止めてくれる腕のあまりの細さに
  涙は とめどなく溢れて止まらなかった




 朝起きて
  イセスが素手と無防具で黙示録に出ると言い出した

 渇いた平手打ちの音をひとつさせて
  私は あの子と一週間口を利かない事を 心に決めた

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