アルケミラの小部屋

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-Passing moment-




「これで、よし、と」



 机に向かい、走らせていた筆を止め、最後にもう一度だけ文面を確かめ、彼は筆を置いた。
 インクが乾くのを待ちながら、用意していた封筒の宛名を確かめ、満足気に息を吐く。
 そして、そんな行為をしている自分に、彼は軽く苦笑する。

 彼がしたためていたのは、遺書だ。
 別に、彼は今日明日にでも自殺するわけでも、不治の重病の末期なわけでもない。
 それは、志半ばで戦に倒れた時……そして、いずれ旅立つ故郷の独逸で、
 試み為らずに死んだ時のためのものだ。


 彼を識る友は、あるいはこの行為に憤るかもしれない。呆れるかもしれない。
 遺書をしたためる前に、生きる努力をしろ、と、彼を叱り飛ばすかもしれない。
 なるほど、今、彼が身を寄せる銀誓館の生徒らしい物言いだ。共感できる。

 ただ、どれだけ絆が深まったとしても、彼にとって譲れない部分はある。
 彼らは、漫画やアニメ、フィクションの登場人物ではない。
 どれほど強大なメガリス破壊効果を有していたとしても、発動しなければ意味はない。

 彼は、生ある者であるのだから、必ず、死ぬ。
 そして、戦場に立つのであれば、死は、ただ日々を過ごす時より遥かに近く
 その隣に佇んでいる。そして、唐突に訪れる。


 ついこの間までは、既に彼を迎え入れる準備が整っていたのだ。
 死は身近なものであり、厳かなものであり、無慈悲なものであり、優しいものだ。
 やがて訪れるその死に対して、彼は訪れた先のことを想う。
 死を覆し、残された人々に言葉を届けることは、侵してはならぬ禁忌だ。
 だからこそ、先に、生きている時に、彼は、言葉を残す。



 ―――――机の下に視線を投げれば、そこには小さな箱の中に、封筒が詰まっている。


 以前、彼がしたためた、遺書たち。
 故郷の独逸で、確実に待ち受けていた死。
 極刑による、吸血鬼としての死を迎える前に、書き遺した言葉。


 それは、今まで彼に応じてくれた人々への謝罪の言葉だった。


 結論から言ってしまえば、彼は、まず、一番最初に、誰も彼もを裏切っていた。
 生を尊ぶ銀誓館という組織の理念に轡を並べながら、彼は、死を是としていたのだ。
 自ら死を選んだ人間が、生きる者を励まし、導き、守り、共に歩んでいた。
 自らの望み、墓守として同じ選択をする他の自分を、以後、生まないためだけに。


 全てを終えた後、彼は、死んでから、皆に謝罪の言葉を届けるつもりでいた。
 恋も、友情も、なにもかもが楽しく、尊いものだった、ありがとう、と告げながら。



 今にしても、最低だ、と彼は想う。
 死んだ者が、死した後に、裏切りの告白と、謝罪と、感謝だけを届けるのだから。
 彼は、もちろん、それを理解した上で、今まで過ごしてきた。
 故に、彼には自分を誇ることなど、到底出来ることではなかったのだ。
 彼は自分の卑しさ、卑劣さを理解した上で、悪と不義を為していたのだから。



 ―――――しかし、それも、もう、終わりだ。



 彼は、箱の中の封書を一つ、手にとって、目を細める。
 同胞も、恋人も、銀誓館も裏切り続ける日々は、終わった。
 彼は、本当の意味で、銀誓館の志を受け取り、己の中で芽吹かせたのだから。
 そして、今、胸を張って、銀誓館を裏切らない生き方を、
 同胞を裏切らぬ生き方と重ねて、生きて行ける。



 戦いがあった。
 遥か古の血、彼が最も敬し、最も憎んだ、原初の血と
 彼が最も憎み、そして最も愛した人間たちとの戦いが。


 目蓋を閉じれば、色鮮やかに蘇る。

 真の闇を従えた貴人たちの、孤高の生き様。
 彼が捨て切れない感傷を超えた先にある、完成された“個”の立ち振舞いが。

 その闇に挑むのは、かつて彼らを『城』の内側へ追いやった血統。
 今も尚、否定の結界で自らの同胞を守り続ける、優しい人々に属する者たち。


 最初は、その優しさにつけ込んで、信頼と信用を得て、
 ただ自分のための勝利をもぎ取るために、彼らと交わった。
 そして、いつの間にか、自分のための勝利は、彼らへ捧げる勝利に、
 己を利するためだけに積み重ねてきた絆は、彼の本音を引き出し、
 種を超えた友情を、愛を、彼にもたらし、与えた。
 彼の人生において、死は、常に隣り合わせだった。
 そして、青春などというものは、なかった。
 彼は欲しなかった、誰も彼に与えなかった。
 しかし、それが芽生え、そして、育まれていった。
 彼が、最後には愛した、人間たちの手によって。



 耳朶には、いつまでも消えぬ追憶の残響が響いていた。

 完璧な父親、誇らしいその血統を穢す無様な己を恥じる心。
 恐らく彼が生涯で看取るであろう以上の数の死を、
 同胞に齎してまで欲した、夢幻でしかない未来のために、
 同胞を裏切ったことを悔い続ける心。
 畏れ敬いながらも、忌むべきものとして退けていた力、
 原初の領域に踏み込みかけた心。


 その心を受け入れ、祝い、導いたのは、彼が憎んで止まぬ原初の血。
 彼はその時、本当の意味で、その血の尊さを、理解した。
 個としての、吸血鬼としての在り方を存在で示し、言葉で他者に伝える古翁。
 彼の投げかけた言葉が、いつまでも消えぬ漣となって、彼の胸に残る。


 その生に刻んだ同胞の勲と誉れ、戦い。
 そして、その同胞に相対した人間たちの持つ、ひたむきな心。
 優しさと、愛を語り継ぐのであれば、敬する者の名ではなく、
 己の名を以て、為せ、と。



 銀誓館で紡いだ軌跡。
 そこに、古き血の道標が交わった時。


 彼は、古のしきたりに、抗う意志と言葉を、胸に宿したのだ。
 永い永い眠りにつく同胞たちに、物語を語る墓守の身が、
 斬首を受け、吸血鬼ですらなくなった穢れた身であっては、ならない。

 それは彼が描いてきた軌跡と、そこで待ち受けていた出会い。
 彼を言祝いだ者の全てを穢すことになる。




 彼は、全ての戦いを終えた後、故郷に戻り、
 一人の吸血鬼として、その生命が尽きるまで、物語を語ろうと決めた。
 

 その選択が、葬院の長老たちにどのように受け止められるか判らない。
 その場で、八つ裂きにされるということもあるだろう。
 戻らぬという選択肢も、その場に誰かを伴うという選択肢も、ない。
 彼は最早、死を是として行動する以前の彼ではないが、
 あの『棺』の円卓は、彼の死地である可能性が高いのだ。


 だが、だからこそ、彼は独りで往かねばならなかった。
 その死地を前にして、抗いの言葉を得たことを告げるために。
 一人の吸血鬼として、掟を超えて為さねばならぬことを下げ、
 本当の意味で、あの円卓を解き放つために、往かねばならぬのだ。


 死ぬ為ではない。
 生きる為に往くからこそ――――その生の先に待つ、死を、彼は疎かにはしなかった。



 書き終えた遺書を、封筒に包む前に、
 以前の過去と決別するために、彼は、手にした封書を……破く。


 中に詰まった、死した後に行う謝罪と、感謝の言葉を破り捨てていく。
 今度、新しく書きしたためた言葉は、友人たちへの、
 ごくありふれた手紙であり、その身を労り、明日を祝うものであり、
 要約すれば、きっと、「どうか、お元気で」、で済むような言葉。

 けれど、死した後には、決して伝えられない言葉でもある。

 恋人にあてた手紙は、友人たちに宛てて詰め込んだ言葉より多く
 長い言葉と―――「両親を、大切に」という言葉が、刻まれている。
 彼にはついぞ、出来なかったことだから。


 最後の一枚を破り捨てると、窓から挿し込む日差しに、ふと目が眩む。
 学園の現状は、想像を絶する状況になりつつある。
 恐らく、待ち受けているのは、今まで以上の地獄だろう。
 

 インクの乾いた便箋を封筒に詰めながら、
 彼の指先は、その心と同じ様に、晴れやかだった。



「きっと、君たちは、誰にも読まれることなく、燃えてしまうから」



 最後の一通を封じ終えると、机の傍らにある、
 三日月刃のガンナイフに一度、目を留めて、
 彼は自分がしたためた言葉たちに、向き直って、告げた。



「――――君たちを綴ったことも、覚えておくよ。僕が、死ぬまで、ずっと、ずっと」 






 

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Adoption




 深く、椅子に座り込んだ体から、『生命賛歌』の効果が抜け落ちると共に
 張り詰めていた気が解け、ようやく、鉛のような疲労を自覚する。

 寄り添うように、椅子の背に身を預ける小さな姉の、冷たく優しい
 夜のような体温を感じながら、今日という日を、想う。


 苦い敗北と、あたたかな勝利。
 届かぬ想いと、繋がる絆。
 滅び行く同胞の美しさと、醜い、我が身のことを――――



   「Adoption」



 哀しい目をしていた少年だった。


 少なくとも、彼にはそう感じられた。

 彼に言えた義理ではないが、故郷の同胞が多く、そうであるように
 貴く在る為、尊く従える為に、孤高たらんとする矜持を誇りとする吸血鬼は
 概ね、孤独を抱えて、その生を生きている。

 気位の高さを感じさせるあの少年は、その例に漏れず
 大人びた振る舞いの中、孤独の光を、その瞳にたたえていた。


 その孤独が、自分と同質のものだと、気がつけたのは
 刃を交え、命を交え、彼の大切なものを全て剥ぎ取っていく最中だった。

 それを、皮肉とは、彼は思わない。
 同胞を死地に追いやる選択をしたのだから。


 ただ、感情と論理で割り切れたとしても
 彼には、自分と同じ、そして、自分よりも深い孤独を抱えた少年に
 差し伸べる手も持てず、その名前を問うことすらも出来ないことが
 どうしようもなく哀しかった。


 友になっていれば、彼の孤独と寂しさは癒せただろうか?
 そうすれば、あの末期の、哀しみに満ちた表情だけでも
 変えることが出来ていただろうか?
 そんな、意味もない空想を巡らせる時が、気がつけば、出来ていた。



   ――――そんな相手を、嘲笑われた



 自分にあって、彼にはなかった、両親からの愛。
 一つの命として生まれたからには、与えられてしかるべきの愛ですら
 彼には、与えられなかった。

 彼は、きっと、求めてやまなかっただろうに。


 初めて、敬すべき相手に、等身大のまま、訂正を求めた。
 あの子を、嘲笑うなと。


 愛される為に足掻くことが、期待に応えようと積み重ねることが
 孤独で、厳しいものだと、知っているから。
 落胆を目にした時の絶望感と、胸に滲む罪悪感の苦さと
 疎まれ、遠ざけられる恐怖を、知っているから。


 その全てを知っているから。
 それ以上の苦しみを味わい、それでも抗ったあの子を、嘲笑するなと。


 初めて、同胞相手に、敬意を全て、言葉を投げた。



 その結果は――――あまりにも、無様だった。



「―――――――」



 悔しさに食いしばる唇を、長い犬歯が破り
 一筋、赤い雫が、おとがいを伝い、床に落ちる。

 気がつけば、腹部が消し飛び、地に臥していた。
 一矢報いるどころの話ではなく、一顧だにされなかった。


 彼は、友と呼びたかった相手の無念すら
 満足に、運び得なかった。


 手の中にある三日月が、月光を返して、瞬く。
 その輝きに目を落として、彼は、そこに映る己の顔を、見る。



 醜い顔だと、鏡を、何かを通して、その面貌を見るだに、思う。
 墓守を気取り、誇りながら、堕ちた、落伍者の顔。
 身の内の感情すらままならぬ、未熟のまま、原初へと至りかけた
 愚か者の顔だと、胸を、傷める。



 古を貴び、古を敬し、古を畏れ、古を封ずる墓守の顔ではない。
 彼は、この姿になるたびに、いつも、敗北感に打ち拉がれてきた。

 そして、そのたびに、首元にかかる小瓶の詠唱銀が
 涼やかな音色を奏で、彼を、立ち上がらせてきたのだ。


 吸血鬼でありながら、人の世の光、太陽の輝きを胸に宿し
 迷いなく、己の誇りを口に出来た女性(ひと)に預けた
 近衛の証の欠片が。



 原初とは、「捨てられた」者だと、彼は認識していた。
 懊悩と葛藤、愛、哀しみ、某かを捨てて、「至った」者だと。
 彼は、かつて、新たな力を得る機会を得た時、思ったのだ。


   「こんな力よりも、我々の怖れる力の方が、強い」


 と。

 一騎にして無数。ひとたび立てば無双。
 数百数千の黒影を従え、地を埋め尽くす絶望の群れ。
 「その力」に、何者も敵うものか、と。

 だから、身に秘めた怒りを解き放ち、身を委ね、堕ちかけ
 投げかけられた言葉に、踏みとどまった。


 自分は墓守であり、たとえ、己の野心の為に築いてきたものであっても
 そこに込め、紡ぎ、繋いできた絆は、本物だったから。
 彼は、忌むべきモノを、なんとか、遠ざけることが出来た。



 その絆は、彼に、色々なモノを与えて続けてくれた。
 今も、与え続けてくれている。


 年頃の少年らしい、ただ、純粋に、憧れと尊崇を抱く相手と戦ってみたいという欲求。
 最後の墓守として、朽ちて死に逝こうとしていた心に、恋を教えてくれた人もいた。

 何故、戦おうとしたのか。
 何故、絶対禁忌である、同胞に刃を向ける禁を侵してまで、戦おうとしたのか。

 それを思い出させてくれる友人が出来た。
 その小さな友人が戦火に包まれ、理不尽な死を迎える時を想像した時。
 彼は、思い出す。


 誰だって、死ぬのは怖い。
 死にたくなんかない。


 だから、掟やしきたりで、残りの人生を、『棺』に封じ込める権利なんてないのだと
 そう告げて、極刑を覚悟の上で、故郷から離れた時の気持ちを。


 彼らの苦難には、万難を排してでも駆けつけるつもりでいた。
 だが、運命の糸は、直接は繋がらず、ひどく、悔しい思いもした。

 ただ、そこに、細くても確かな絆の糸が残っていた時。
 彼らに託した想いが過つことなく伝わり、届くと確信した時。

 己の歩んできた道行きは、間違っていなかったのだと、信じられた。
 それが、ただ、言い表せない嬉しさで胸を満たしたことを、彼は覚えている。



「―――――――」



 厳しさにだけ彩られていた目が、三日月の刃の上、数瞬、和らぐ。
 とりとめのない思索しか巡れない彼は、つかの間、安らぎを得て
 その刃から、もう一度、己を透かし見る。



 拙く、愚かで、ちっぽけで、未だに、己を恥じているような身でも
 為せることもあれば、紡げる絆、届けられる想いもある。

 そう信じ、意気込んで、臨んだ場だった筈なのに。
 彼に出来たのは、ただ、吠えるだけだった。

 噛み付くことすらも出来なかったのだ。

 その後、彼に出来たのは、己の前に立ってくれる人たちの背中を見つめて
 立とうとする意思を燃やし続け、己を庇ってくれた恋人を抱きとめることだけだった。



 きっと、自分で卑下するほどに、他人はそう思わないのだろうけど
 彼は、改めて、自分の弱さを、噛み締める。


 そして、何より、悔しいのは、吠え叫んだ言葉ですら
 届かせられなかったこと。


 友達を笑った相手を…………殴れなかったことだった。


 ガンナイフの柄を握る右手が震え、空の左手は、白手袋を爪が破り
 手の平に喰い込むほど、握りしめられていた。



     ――――その左手に、そっと、夜が舞い降りる



『イセスが おもいっきりパンチしても
    あのヒトは きっと わからなかったよ』



「――――姉さん」



 静かに、声のない声が、胸に落ちる。
 椅子に背を預け、ただ傍に居てくれた姉が、諭すようにではなく
 ただ、思うままを告げるように、伝えてくる。


『だって あのヒトは あのコのおかあさんじゃなかったもの
  あのヒトは あのコのおにいさんだけの おかあさんだったから』



「―――でも」


 反論に開けかけた口が、次の言葉を紡げない。
 彼にも、それは、わかっていたから。

 彼は、原初の吸血鬼を「捨てて」「至る」領域だと、理解している。
 だから、そこで捨てられたモノの中に、彼が入っていたのだ、と。

 そう理解していても、納得は出来ない。
 なぜなら、彼は、あんなにも苦しんでいたのだから。

 その理不尽に、どうして……怒らずにいられるのだろう?


『それだけで いいんじゃないかな』

「―――え?」


 思考の空隙を埋めるように、声が飛び込んでくる。
 戦うために、見慣れた姿に戻していた姉ではない。
 ここ数年でとれるようになった、童女の姿になっている姉だ。

 見上げてくる顔のつくりも、仕草も
 なにもかもが幼いけれど、その心は、変わらない。

 いつも、いつも、彼の姉は、そうやって


『あのコは もうしんじゃったけど
   おこってもらったり 
    おもいだしてもらったりしてもらえるのって

  しんじゃったアトでも 
   おかあさんにわすれられても 

       あったかいコトだと おねいさんおもうな』


「――――――」


    ――――彼を、納得させてしまう。



 ストン、と、胸に落ちる言葉に、怒りが、鎮まっていく。
 ガンナイフを見つめる瞳に、彼の持つ、どうしても捨て切れない
 優しさが、降り注ぐ。


『イセスは そういうの むいてないんだから
  パンチできずに くやしがったり ないたり セイシュンするだけで よいのよ』



 立ち上がり、椅子の背をよじ登り、背後から弟の頭の上に
 腕組みをして、居座りながら、小さな姉は、その小さな手で、弟の頭を撫でる。


『キミは なぐったり 
  なぐりかえしたりしなくするために
   がんばってるんだから  でしょ?』



 微かに頷く弟に、満足げに頷いて、姉はそれきり言葉を止める。
 小さな、本当に小さなすすり泣きが、まるで聞こえないようなフリをしながら。



 静かに、胸の悔しさを放ちながら、今日を振り返る。
 名も知らぬ少年のために、怒り、敬意も忘れて戦ったことにこそ
 意味があるのだと、噛み締めながら。







『ねー  イセス』


「―――なに、姉さん?」



 時が過ぎ、心が落ち着いた絶妙のタイミングで
 姉が、何気なく、言葉を放つ。
 応じる声は、深く、穏やかで、優しい。



『いつまでもねー あのコ あのコじゃアンニャロだから
  おねいさんたちのナカで ナマエをあげるのはどうかなーとおもうのよ』


「名前?」

『そう ホントのナマエはあるだろケレド
  ユウジョウネームってカンジ あとおねいさんのカンでは タブン ドンピシャ』


「姉さんの勘は、当たるからなあ」


 姉の戯れに、けれど、確かに
 どこか確信めいた響きを感じて、彼は問い返す。

 彼の姉は、いつも、破天荒で突拍子もなく
 ずるくて、おいしいところを持っていくのだから。


「なんて名前?」

『あのねー』






 姉が唇に乗せた言葉に、何故か、涙がこぼれて。
 彼は、頷いて、ため息をこぼすように―――――答えた。







                  「ああ………いい名前だね。
                       すごく、彼に似合ってる」






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Re:Going on




 静かに、雨音が響く。


 屋内プールの中で、雨など降る筈はないのに
 それはハッキリと、僕の耳に届いていた。

 降り注ぐ雨粒も、肌を打つ雨の雫もなく
 目の前は、雨の緞帳に烟ることなく明瞭で。

 だのに、僕は、確かに雨音を聞いていた。
 降りしきる、雨を視ていた。


 細い細い、銀色の雨粒が奏でる
 涼やかな雨の音を、確かに、聞いていた。



 ―――砕けた詠唱防具から溢れる、銀色の雨の音を。




「Re:Going on」




 その日、その瞬間を待ち望んでいたのは
 誰だったのだろうか。


 御鏡・幸四郎という人は、その日を、少なくとも3年は
 待っていた筈だった。


 彼との出会いは、よく覚えていない。
 ただ、彼が、「入団した時から、気にかかっていました」、と
 静かに言ったのを、よく覚えている。


   ―――轟音が一つすると共に、あの時と同じ様に
      詠唱防具が一瞬で砕け散り、胸郭を、雑霊弾が撃ち抜いていった。


      使役使いの体力を奪うには十分すぎるほどの威力が
      肺腑を抜けて、背中に徹る。完全な致命傷に、体躯が傾ぐのを感じた。

 
 さんざめく銀の雨音を聞きながら、思い出していた。
 そして、ふと、思い至る。
 あれが、彼らとの「出逢い」なのだろうか、と。


   ―――たった一度で崩折れた足が、床を噛んで、倒れる体を支えた。
      否、支えたというほどに大仰な仕草ですら、なかった。
      ただ、「倒れる」という選択肢が、体の全てから放棄されていた。

      「倒れられない」のだから、帰結は一つ。
      僕は、ごく自然に、そこに、立っていた。


 その日、その瞬間を待ち望んでいたのは
 誰だったのだろうか。


 イセス・ストロームガルドがその日を待ち焦がれていた時間は
 少なくとも、御鏡・幸四郎という人が費やした時間よりも
 多かろう筈がなかった。


 右腕が上がり、鉤爪の形を作る。
 振り下ろす軌跡の先、艶やかな黒影が、正に影と化して
 爪先から逃れ、流れるような動作で、銃口をポイント。


 轟音。
 直撃。


 胸腔を抜ける灼熱がもう一度。
 気力だけで立っている魂を、五度打ち倒す破壊力が吹き抜ける。


 痛みに白む意識の中で、想う。
 待ち焦がれていた時間、待ち望んで積み重ねた想いで勝るこの人に
 どうやったら勝てるのだろう、と。

 そして



 この人と出逢ったのは
 一体、いつだったのだろうか、と。



   ―――雨音に紛れて、祈りの声が聞こえる。
      すぐ近く、すぐ傍で、祈りの声が、聞こえてくる。

      それは、僕以外には届かない声。
      僕だけに届く、姉さんの声。

      一度だけ頷いて、足を踏み出す。
      体は、二度目の選択肢放棄をしていた。



 右腕が上がる。
 同じ構えで、同じ技。

 たとえ何千回、何万回見切られても
 この技だけは、信じている。

 僕の父が確かに生きた証だから。
 


 目の前には、黒い影が一つ。
 その中に二人。勝ちたい人たちが、居る。



 右腕を振り下ろしながら、想う。


 僕がこの人に出逢ったのは、初めて逢った日なのだろうか、と。
 それは、違う、と、言い切ることが出来た。


 人は人と出会って、その人に出逢うのでは、ないから。
 積み重ねたお互いの時間の中で、言葉を交わし、心を交わし
 同じ時間を過ごした絆の中で、その人の心の裡を覗いた時、初めて


 人は、人と出逢う。



   ―――爪牙が、黒影を捉える。


      瞬間、思いの丈を全て、解き放つ。


      猛り狂う血と心の叫びが、影を、断つ。



 交錯の中の思索で、至る。
 この人と逢ったのは、ほんの、数ヶ月前だった。


 それまで、共に笑い、共に戦い、語らい、時に導かれ
 労苦を分かち、労られ、あれだけ時を重ねた人だというのに

 その、熱い熱い、静かな闘志を知り得たのが
 ほんの数ヶ月前だった。



 結論にたどり着く。
 僕が彼に出逢ったのは数ヶ月前で
 きっと、彼は、もっとずっと前から、僕に出逢っていた。

 彼と僕との間に横たわる時間の隔たり。
 その長さを考えれば、僕が、勝てる道理は、ない。


 では、僕は、負けるしかないのだろうか?



   ―――爪牙が、再び、黒影を捉える。


       彼は、姉の祈りを胸に、立ち上がった。



 彼に勝つためだけに、戦道具を設え
 必勝の先手をとって尚、劣勢に追い込まれること二度。

 彼の闘志に触れていなければ、折れていたであろう膝を支え
 ようやく必殺の一指を繰り出せば、彼もまた、倒れない。


 膝を支えるものが、もし、積み重ねた想いの強さ、重さ、長さだとしたら
 削り合いで、僕が負けるのは、必定だった。



   ―――繰り出す事、三度。


       爪牙が黒影を抉る。


       彼は、静かに、そこに佇んでいた。



 強い。

 改めて思う。

 本当に、身も心も、強い。


 心の奥底から沸き上がる感嘆と共に
 ふと、先程、結論が出た筈の疑問が


 もう一度、心の片隅をよぎった。



 彼に出逢ったのは、いつだろうか、と。



 ただただ、勝ちたい、と、前を向いていた気持ちに
 熱く燃える夏の空の心に、ふと、秋の風を、感じた。



 彼は、なんと言っただろう。
 この戦いが始まる時、なんと、言っただろうか。




「――――」



 静かに見据える視線の正面。
 彼は、静かに、佇んでいた。


 この戦いが始まる前に告げた言葉を
 きっと、ずっと、もっと前から、胸に抱えたまま。



 戦いの火蓋を切った時の声が、蘇る。



           ――――「幸四郎さん、七ノ香さん……勝負です!」


 その日、その瞬間を待ち望んでいたのは
 誰だったのだろうか。


 その出逢いを待ち続けていたのは、彼だけで。


「―――イセスさん、アルケミラさん」



 今、ようやく、僕たちは



「超えられますか、私たちを」


            ――――「超えられますか、私たちを」


 その出逢いに、辿りつけた。


 彼と出逢ったのは、いつだっただろう。
 それは、遙か3年も前であり。
 たった数ヶ月前であり。


 そして、今、今日、この日、この瞬間だった。


 その日、その瞬間を待ち続けていた彼に
 贈る言葉と技は、ただ一つ。



「――――はい」



 確かな頷きと言葉を返し
 彼からの願いを受け取り、受け止めて


 静かに、右上段から、爪を、振り下ろす。



 ゆっくりと傾いでいく幸四郎さんの向こうで
 ずっと、彼を見守っていた、彼によく似たお姉さんが
 静かに、優しく――――微笑んでいた………


      

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弱きを挫くは至福の時

弱きを挫くは至福の時 ―現時点でのまとめ―




【準備】
・夜半を想定して照明を準備する
・防具は敵前衛の強力な攻撃に備えて気魄ボーナス

【作戦】
・3班に分かれ、敵を囲んで内側に封じ込める様な包囲陣形で突撃する
・基本は各班ごとに敵1体に火力を集中、早期の各個撃破

・1ターン目:攻撃範囲に敵が居たら、前衛は移動して攻撃
・1度の移動で届かない場合は陣形を崩さず移動しつつ可能な限り自己強化
・敵が先に移動してきたら取り囲んで集中砲火
・以降、奏甲役に回復と強化を任せひたすらに攻撃
・敵を全滅させた時、そのターンで動ける者はすぐに貴種の元へ向かい攻撃
 後衛役が居た場合は隙を見て人質を保護
・ドール撃破かつ熊妖獣3体以下の状況で貴種の元へ向かえるなら、奏甲役1人と
 一番無傷な前衛が貴種の元へ向かう



※あくまで提案段階の一案


【班分け】
A班:正面部隊(20m直線活用型)
<前衛>緋桜・美影【青龍×真白虎:Lv77・術気型】(絶命拳)
<前衛>火狩【オメガ:Lv68・気神型】(セイバー・20m直線)
<中衛>フリッツ・ゲヴェール【真人狼×白燐:Lv64・気型】(奏甲役)
<後衛>草薙・藤次郎【真水練:Lv80・術神型】(手裏剣)


B班:右翼部隊(遊撃部隊)
<前衛>闇憑・氷影【黒燐×魔剣:Lv85・気型】(黒影)
<前衛>アルケミラ【真ドール:Lv72・神型】(貪り)
<中衛>蒼月・秋奈【黒燐×真土蜘蛛:Lv75・気神型】(奏甲)
<後衛>イセス・ストロームガルド【真貴種:Lv79・術型】(クロス)


C班:左翼部隊(強襲突撃部隊)
<前衛>藤城・新次郎【魔剣士×黒燐:Lv80・気型】(黒影・ダークハンド)
<前衛>八塚・辰房【青龍×人狼:Lv76・気術型】
<前衛>ダスティ・マサソイト【真魔剣×真ゾンハン:Lv73・バランス型】
<前衛>リラ・リエンダ【牙道×白燐:Lv73・気型】 

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【依頼】夢を貪る一時と【まとめ】



今回の依頼のまとめを記載してみます。
また、【班分け案】は「現在の戦力でこんな戦い方が出来る」ということを
アイディアとして提案しているだけですので、アビを指定したりする意図はありません。

提案を検討していただく為の材料であり、押し付けや指示などではないことを
お伝えしていきます。

その上で、押し付けがましいなどの思いを抱かれました方がおられましたら
この場を借りて深くお詫び申し上げます。





【女性への対処】
・先に集合した班が「ブロッケンの魔物」「王者の風」で威圧して逃亡させる
・逃亡させる為に路地の反対側は開けておく
・女性の逃走をフォローする要員を決めておく

【捜索】
・手分けをして個別で店舗を見張り、目標を捜索
・見張る店舗は事前に調べて割り振っておく
・短い時間で定時連絡を取り合い、場所の確認を行う
・フェイスレスさんのスーパーGPSを活用する

【発見から戦闘】
・合流し、A班・B班に別れる
・先に集合出来た班から路地の一方の出口を塞ぐ
・もう片方の班は女性も脱出を確認した後に出口を塞ぐ

【班分け】
・戦闘時のみ、基本は「前衛2」「中衛2」「後衛1~2」
・A班:『前後可-シーケンス先輩』『後衛-フェイスレス先輩』+天宮先輩
・B班:『前衛-アルケミラ』『後衛-稲葉先輩・イセス』

【前衛希望】
・緋色先輩

【前後可能】
・ファスニックモア先輩

【中後希望】
・黒鵡さん


【班分け案】
・敵はリビングデッドが神秘、ゴーストが術式
・なので気魄型をなるべく前衛に

・A班:『前衛-天宮先輩(気)・御神楽先輩(術)』『中衛:黒鵡さん(術)・フェイスレスさん(術)』『後衛:水城さん(術)』
・B班:『前衛-緋色先輩(気)・アルケミラ(神)』『中衛:ファスニックモアさん(気)・シーケンス先輩(術)』『後衛:稲葉先輩(神)・イセス(術)』

・A班:ライトニングヴァイパー×2、サンダージャベリン×1で範囲攻撃可、呪殺符による遠距離攻撃可能
・B班:黒燐暴走弾×1、森王の槍×1、バットストーム×1で範囲攻撃可、ブロッケンジャイアントからの瞬断撃可能

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